青学で育んだ感性を土台に、“みんな違う”時代のファッション誌を編集する

OVERTURE
集英社のファッション雑誌「non-no」は、1971年に創刊以来、10代後半から20代前半の女性に絶大な人気を誇っています。2023年に編集長に就任した中込直子さんは、国際政治経済学部で国際コミュニケーションコースを選択し、最先端のカルチャーに囲まれた環境に大いに刺激を受けて過ごしたそうです。今回、同じく国際コミュニケーションコースに所属し、学生ファッション団体でも活躍する鈴木さくらさんがインタビューしました。

中込 直子さんの
Profile
2002年に新卒で株式会社集英社に入社。30代女性を対象とした雑誌「LEE」やモード雑誌「SPUR」に携わり、2015年からは「non-no」に異動、2023年編集長に就任。中学の時に小説を書くことに挑戦したが、オリジナリティに限界を感じて創作の道には進まなかった。その後、編集者という仕事を知り、創作よりも向いているかもしれないと今の仕事に興味を持った。在学中は末田清子教授のゼミに所属。教授やゼミ生との交流は現在も続いている。
国際政治経済学部 国際経営学科* コミュニケーションコース卒業
集英社「non-no」編集長
中込
直子さん
*2006年募集停止

鈴木 さくらさんの
Profile
中学時代に英語の授業で国境なき医師団が提供する映像を見て、貧困などの国際問題に興味を持つ。国際問題を解決できる国際コミュニケーターをめざして国際政治経済学部国際コミュニケーション学科に入学。現在は猿橋順子教授のゼミで、異なる言語話者同士のコミュニケーションを中心に研究を進めている。ファッションにも興味があり、さまざまな大学の学生が集まるファッション団体Archives of Collegeでも活動している。
国際政治経済学部 国際コミュニケーション学科 3年
鈴木 さくらさん
従来のマーケティングに頼りすぎず、
大学生とともにつくる「non-no」
鈴木:私は中学校の修学旅行で集英社を訪問し、雑誌「Seventeen(セブンティーン)」の編集部を見学したことがあります。そのきっかけもあり「セブンティーン」を購読していましたが、大人っぽいファッションも好きで「non-no」も毎号買っていました。今日、インタビューできるのをとても楽しみにしてきました。
中込:それは嬉しいですね。ありがとうございます。
鈴木:「non-no」は大学生をターゲットと打ち出していますが、『はじめても、はじまりも。non-no』というコンセプトも素敵だなと思います。これに込められた意味を教えてください。
中込:はじめてのメイク、私服通学、一人暮らしなど、大学生には「はじめて」がたくさんあると思うのです。成人式の振袖や、そのお祝いとしてはじめてハイブランドのアイテムを手にするなど、ライフイベントも多く変化に富んだ時期です。そうした「はじめて」をサポートする情報を届けるとともに、例えば「好きなモデルが載っていたから」という理由で手に取った読者が、記事を読んで新しいメイクに挑戦したくなるといったような、何かを「はじめる」きっかけでもありたい、そんな希望を込めています。
鈴木:私も大学から一人暮らしをはじめて、20歳の誕生日に親からブランドのお財布をプレゼントしてもらったのでとても共感できます。若い女性向けのファッション誌が多くある中で、差別化についてはどのように意識されていますか。
中込:大学生と直接話しながら制作しています。今は“みんな違う”嗜好の時代。だからこそ、従来型のマーケティング手法では対応しきれないと感じています。そこで「non-no大学生エディターズ」という組織を立ち上げ、メンバーの皆さんに、今気になることや好きなことをブログで発信してもらっています。また、彼女たちとコミュニケーションする中で見えてきたものをピックアップして特集に生かすこともあります。イメージでつくりあげた読者像よりも、たとえ1人や2人であっても実際にコミュニケーションをとっている相手に向けた特集の方がパワーがあると思うのです。さらに、大学生エディターズメンバーとは別に、「non-no」を読んでいる、読んでいないに関係なく、大学生とざっくばらんに喫茶店でおしゃべりをする試みも長く行なっています。そうすることで熱心な愛読者以外の方の考えや価値観にも触れることができます。最近では、コロナ禍にZOOMを使いはじめたことで、オンラインで全国の大学生と広くコミュニケーションを取れるようにもなりました。ただ、編集長になってからは立場上気軽に会を開きにくくなってしまいましたね。
紙の雑誌だからこそ可能な、感情の揺さぶり方がある
鈴木:私は大学生がつくるファッションメディアの活動もしていて、その中での情報源はSNSが中心となっています。一方で、物としての雑誌や本も大好きです。デジタル化が加速する中で、紙の雑誌の意義についてもご意見を伺いたいです。
中込:紙の雑誌には、まず「編集されている」という大きな意義があります。真偽不明の情報が多く出回るSNSとは異なり、雑誌では編集者が責任をもって一次情報にあたり、信頼性の高い内容を掲載しています。これは雑誌のWEB版でも同じことがいえます。そして紙ならではの世界観という点では、ページをめくった瞬間に飛び込んでくる印象的なカットやレイアウトなど、ページをめくる動作や紙の質感があるからこそ、感情に直接響くような演出ができる。スクロールでは得られない、紙ならではの体験です。
鈴木:確かにそうですね。私も紙で読むのとスマホで見るのとでは、別の行為だと感じます。
中込:先ほど鈴木さんも情報源がSNS中心になっているとおっしゃっていましたね。WEBで検索して情報を集め、自分なりの興味を深めていくことは私自身も行いますし、意義も深いことですが、どうしても自分の好みや知識が軸となったアルゴリズムで出てくるものに囲まれ、本当の意味での“偶然の出会い”は少ないのではないかと思います。「好きなアイドルがお目当てで買った雑誌で眉の書き方を覚えた」「たまたま目に入った就職活動の経験談が将来を考えるきっかけになった」など、思いもかけない“偶然の出会い”があることこそが、名前の通りに雑多な情報が詰まっている雑誌の魅力だと思います。
鈴木:読者との関係構築では、どんな工夫をされていますか。
中込:信頼性を確保し、正確な情報を伝えること以外では、視点の持ち方に気を遣いますね。自分だけの視点にととどまらず、若いスタッフの視点や意見も取り入れる。全国誌でもあるので、できるだけ東京中心に偏った視点だけで雑誌づくりをしない。などといったことです。
もちろん東京にベースがある編集部ですし、トレンド情報や新店舗情報など、東京の情報は多くなってしまいますが、紹介するコーディネートが、全国のさまざまな土地で暮らす読者にとって、リアルであるか広く意見を聞きながら制作しています。もちろん、ファッション誌なので、思い切りトレンドに振り切る特集もありますが、読んでくれる方が“自分ごと”にできる情報とのバランスを取るように心がけています。また、「LEE」時代に街頭でおしゃれスナップをしていた時、撮影後の会話の中で何気なく「地方」という言い方をしてしまったことがあるんです。スナップをした女性と一緒にいた男性に、「東京の人はすぐ“地方”っていう」と指摘され、「確かにこの言い方は東京が中心の考え方だ」と気づかせてもらったことがあって。そこから、できるだけその言い方をしないように心がけています。
鈴木:私も新潟県出身なので、東京視点の情報ばかりであると寂しさを感じますので、その気配りは嬉しいです。
今につながる感性を培った、刺激あるカルチャーに囲まれた環境
鈴木:学生時代はどのようなことを学んでいらっしゃいましたか。
中込:国際政治経済学部国際コミュニケーション学科の前身である、国際経営学科の国際コミュニケーションコースで、末田清子先生のゼミナール(ゼミ)の2期生でした。幼稚園で子ども同士がどのようなコミュニケーションを取りながら問題解決や相互の「交渉」を行なっているかなどを観察し、卒業レポートにまとめました。
鈴木:面白そうな研究ですね。ちょうどゼミで、異なる言語でのコミュニケーションの研究がはじまったところなので、興味深いです。学業成績が優秀で表彰されたとも伺っていますが、良い成績をおさめる秘訣はどこにあるのでしょうか。
中込:秘訣は特にありませんが、授業は全部録音して、通学時やテスト前に聞き直していました。目の前のやるべきことにきちんと向き合いたいタイプなので、英語のスピーキングは苦手でしたが、その分英語ディベートでは「話せない分、準備は任せて」と自分がやれることを率先してやっていたりしましたね。
鈴木:努力の積み重ねや積極性が大切なのですね。今のお仕事につながるような活動はありましたか。
中込:「絶対にマスコミに就職したい」と考えていたわけではなく、就職のために特別何か準備したことはありません。でも今思えば、原宿、渋谷、表参道など個性あるエリアに囲まれた環境で大学時代を過ごしたことは、ファッションを仕事にする上で良い刺激を受けていたと思います。また、軽音サークルの先輩や友人から情報をもらって出会った音楽、集めたレコードやCDのジャケット、カルチャー雑誌などは、今、特集や記事の撮影コンセプトを考える時の源泉になっています。
鈴木:私も学校帰りにCDショップや古着屋に寄ったりしているので、周辺環境の良さはいつも感じています。勉学面ではいかがですか。
中込:ディベートをする機会が少なからずあり、自分とは別の立場から考える訓練ができて、現在の自分視点だけで考えないようにする意識につながっていると思います。また、大学生とおしゃべりをする機会を設けていると言いましたが、はじめは末田先生を通して大学生を紹介していただき、その友人、そのまた友人と輪を広げていきました。
鈴木:現在も、青山キャンパスに来られることはあるのですか。
中込:つい最近、「non-no」5月号の表紙&特集のロケ地として青山キャンパスを使わせていただきました。「春から大学生、春からノンノ。」というキャッチコピーで、毎年新生活がはじまる時期に屋外広告を作っていますが、5月号の表紙はその広告にも使われています。電車内ステッカーも貼りだしていたので、目にした青学生の方もいらっしゃるかもしれませんね。
鈴木:そうだったのですね。中込さんの学生時代から共通する青学の特徴はありますか。
中込:うまく言葉にはできませんが、「青学生はこうあるべき」と強制されない自由な雰囲気が青学らしさだと思います。一人ひとりが自分らしくいられる、そんなカルチャーがとても好きでした。好きなものや性格が違っても尊重し合える空気があります。
鈴木:わかります! 私もうまく言葉にできませんが「個」が大切にされていて居心地が良いなと思います。
華やかさの裏にある、チームを支える編集長の役割
鈴木:ファッション誌の編集長というと華やかな印象がありますが、実際には多くの人を支える立場でもあると思います。中込さんが編集長として、チーム全体をまとめたり支えたりする上で意識していることがあれば教えてください。
中込:おっしゃる通り、なぜか華やかに見られがちなのですが、編集の仕事の8割は準備と確認です。例えば、一つの特集において実際に誌面に掲載できる写真は数枚に限られますが、そのために何日もかけて事前のリサーチや撮影準備を行いますし、発行前には何度も細かい確認、校了作業を重ねます。
編集長になってからは特に、予算の管理や雑誌の方向性の調整など、「現場を動かすための裏方」としての役割が大きくなりました。スタッフが自由に、のびのびとアイデアを出し合い、最高のパフォーマンスができるように、現実的でシビアな部分は自分が引き受ける。そういった意味でも、縁の下の力持ち的な側面が大きいですね。
鈴木:私は今3年生で、そろそろ就職活動もはじまります。自己PRなどアピールが必要になりますが、自分の強みをなかなか見つけられません。見つけるためのコツがあれば教えていただけますか。
中込:私も自己アピールは得意ではないのですが、いちばん良い方法は周りの人に尋ねてみることだと思います。家族、友達、アルバイトの先輩、サークル仲間などにインタビューしてみてください。その時に、できるだけ具体的なエピソードを出してもらうのがおすすめです。派手なエピソードでなくても日常的なことで構いません。そのエピソードの中で、自分では「苦ではない」と思って自然にできていることや楽しんでできていることが、ご自身の強みと思って良いのではないでしょうか。
鈴木:ぜひやってみたいと思います。最後に、大学時代にやっておくと良いということを教えてください。
中込:月並みかもしれませんが、“無駄”や“くだらなさ”の中にこそ、後に役立つ学びが潜んでいると思います。今は多くの人が効率を大切にし、失敗もできるだけしたくないと考えています。その考えも理解できますが、例えばファッションでも一度着てみないと似合うかどうかわからないし、失敗かどうかもわかりません。私も音楽を通して触れた世界や見つけた「好き」が雑誌の編集のヒントになるとは、青学に通っていたころは全く思っていませんでした。後で何が役立つかはわからないものですから、無駄かもしれないなと思う買い物、たわいないおしゃべり、目的のない寄り道など、心が動いたものには素直に従って、いろいろな経験をしてみてください。
鈴木:今日はありがとうございました。
卒業した学部
国際政治経済部
国際コミュニケーション学科
青山学院大学の国際政治経済学部は国際社会への貢献をそのミッションとし、国際系学部の草分けとして創設されました。各学科の学びを深めるだけでなく、有機的に3学科の学びを統合することもできます。グローバルレベルの課題への理解を深め、エビデンスにもとづいて議論・討論するスキルを養成します。世界の多様な人々と協働し、新たな価値を創造する実践力を育みます。
国際コミュニケーション学科では、激変する国際社会において政治学的・経済学的な視点からだけでは扱いきれない国際事象を学問領域として学修・研究します。異なる文化への理解と他者との共存について考え、国際社会が抱える諸問題の解決に貢献できる人材を育成します。卒業生は国際渉外・広報、各種海外協力事業団、通訳・翻訳、マスコミ業界などさまざまなフィールドで活躍しています。
