刑事弁護に生きる、パンク・ロックの精神とサーバント・リーダーシップ

掲載日 2025/00/00
No.000
高野隆法律事務所
法学部 法学科卒業、法務研究科 法務専攻3年標準コース修了*
*法務研究科は、2018年度募集停止
須﨑 友里

OVERTURE

刑事弁護士として、被疑者や被告人に寄り添い続けてきた須﨑友里さん。弁護士としての信念は、学生時代からひたむきに打ち込んできたパンクミュージックとサーバント・リーダーシップに根ざしています。現在までの道のりと、刑事弁護にかける思いを伺いました。

反骨の精神から刑事弁護の道へ

私は現在、刑事事件を中心に担当する弁護士として活動しています。弁護士といえば法廷で弁護する姿を想像される方が多いと思いますが、実際は、それだけでなく勾留中の依頼者との接見(弁護方針の決定や取調べに対する法的アドバイス、精神的なケアなど)や、保釈請求など裁判所への働きかけ、弁護側立証についての調査や収集、法律文書の起案や弁護団での打ち合わせ、さらには依頼者のご家族とのコミュニケーションまで業務内容は多岐にわたります。

弁護士を志すようになったのは、青山学院大学を卒業してしばらく経ってからのことでした。在学中は法学部に身を置いてはいましたが、大好きな音楽中心の生活を送っていたからです。法学部に進学した理由も「法律の知識は社会での汎用性が高いのでは」と考えたためで、後に専門家として法の道に進むとは想像もしていませんでした。

私が音楽と出会ったのは小学生の時です。「Hi-STANDARD(ハイスタンダード)」というバンドに心を奪われてから、自身もバンドを始め、大学ではベーシストとして本格的なパンクバンドを結成しました。パンクの特徴は、その根底に「怒り」というテーマがあることです。それは、強者の理論を振りかざし、社会の周縁にいる人々を押しつぶそうとする「権力」への反骨精神ともいえます。バンドでは精力的にライブやCD等の制作を行い、大学卒業後はアルバイトをしながらバンド活動を続けました。

新たな気持ちで法律を見つめ直したのはそうした時期のことでした。ある経験を通じて、警察や検察による捜査の実態を知ったのです。長期の勾留や威圧的な取調べによって被疑者に負担を掛けて、時には犯していない罪の自白を強要するケースもあると知り、強い憤りを覚えました。「たとえ誰かが罪を犯したとしても、権力側が理不尽に振る舞っても良い理由にはならない」と考えたのです。その憤りはこれまで追求してきたパンクの精神にも通じるものでした。また、そういった経験を通じて、犯罪を繰り返してしまう人々の存在も知りました。そこから自分自身を大切にして欲しいという気持ちも生まれました。そしていつしか「法の知識を持つ自分が弁護士となり、困っている人のために闘う道もあるのでは」という思いが芽生えるようになりました。音楽は私にとってかけがえのないものでしたが、一方で将来への不安や、進路について両親に心配を掛けていることへの心苦しさも大きくなり、葛藤の末、ついにバンド活動を引退して刑事弁護の道に進むことを決心しました。

そこからは心機一転、司法試験に向け青山学院大学のロースクール(大学院法務研究科)で学ぶ日々が始まりましたが、当時はまだ自らが目指す弁護士像を掴みきれていませんでした。そんなある日、授業のゲストスピーカーとして高野隆弁護士が登壇され、大きな衝撃を受けました。高野弁護士はまさに「闘う弁護士」だったのです。被疑者の権利を守るため弁護士が中心となって立ち上げた、弁護活動の実践を通じて憲法の理念に適った刑事実務を目指す研究・実践グループ「ミランダの会」の話や、刑事裁判では0.1%と言われる無罪判決を勝ち取った実力、弁護活動に傾ける情熱などを目の当たりにして、「自分も高野弁護士のような弁護士になりたい」と思うようになりました。

ロースクールではすべての先生方に本当にお世話になりました。どの先生も熱心で丁寧に指導されていて、授業内容も充実していて恵まれた学習環境だったと感じています。本田守弘先生の「刑事訴訟法」では、元検事ならではの視点や捜査の実例が大変勉強になりましたし、「刑法」の酒井安行先生、「行政法」の久保茂樹先生には、私が弁護士になってからもアドバイスをいただきました。民事訴訟法のサブ講師として指導してくださった先生には今でもお世話になっています。知識の豊富な先輩方と近しく学べる環境も素晴らしいものでした。ロースクール修了後、現在は学びの恩人である高野弁護士の事務所に所属して弁護活動を行っています。

「有罪率95.5%」その陰にあるもの

弁護活動を進める中では、刑事手続きにおける様々な問題に直面することもあります。特に私が問題視しているのは、国際的に見ても長期とされる勾留期間です。本来、勾留は被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐための措置ですが、実際は自白強要の手段とされることもあり、いわゆる「人質司法」として批判されることもあります。勾留に必要な3つの要件が満たされているか不明瞭な状況でも、裁判所は検察による勾留請求を認めているケースが少なくないのが実情です。

現在、日本の起訴有罪率は95.5%に達しています。起訴されればほぼ有罪となるこの状況は、一見すると捜査の精度の高さを示しているようにも見えます。しかし実際は、有罪に導くための強引な捜査が行われることもあるのです。威圧的な取調べや不合理な長期勾留は冤罪発生の一因ともなっており、法制度と運用の両面で一日も早い改善が必要だと考えています。

弁護活動を支えるのは、揺るぎない情熱と仲間の存在

「ハードな弁護業務のなかで、どのように気持ちを保っているのですか」と聞かれることがありますが、実のところ、私は気持ちの切り替えがあまり得意なほうではなく、些細なことに思い悩んだり理不尽な状況に怒りを覚えることもあります。そのような時には「弁護士が諦めたら終わりだ」という高野弁護士の言葉を思い出します。原告や被告本人、もしくは一部の事件では司法書士も代理が可能な民事事件と異なり、刑事事件で被疑者・被告人を弁護できるのは弁護士だけなのです。刑事弁護のハードルは極めて高いのが現実ですが、それでも、いかなる案件であっても依頼人のために最善を尽くし、全力で向き合っています。その原動力となっているのは「この人を守れるのは自分しかいない」という熱い使命感です。

仲間の存在も私の背中を押してくれます。バンド活動を辞める時に惜しんでくれたメンバーや、一緒に音楽をやろうと声を掛けてくださった憧れのアーティスト。そして周囲の弁護士の方々を思うと、中途半端な姿は見せられないと思うのです。弁護士事務所で皆と昼夜問わず弁護団で事件に取り組む刑事事件に取り組んでいると、新宿の音楽スタジオのことを思い出します。バンド時代もまた、夜が明けるまでメンバーと練習に打ち込んで思いを語り合っていました。当時も今も、私には大切な仲間がいることを感じます。これからも周囲の方々と支え合い、刑事弁護を続けていきたいと思います。

プライベートでは家族の存在が力になってくれます。以前は昼夜も問わず働きづめの生活を送っていましたが、家庭を持ってからは働き方も変わりました。接見などの外回り業務は午前中に行い、起案などのデスクワークは夜に在宅で進めるなど、働き方にも工夫を重ねています。特に自然の中で家族と過ごすキャンプはホッとできるひとときです。

何を思い、どう行動するか―
サーバント・リーダーシップは弁護活動の礎

音楽一色のように思えた大学時代ですが、改めて振り返れば豊かな学びがありました。住吉雅美先生の「法思想史」「法哲学」の授業では法律をより深く捉えられるようになりました。また西洋の思想史に関する授業も忘れられません。「自分の考えを書く」というレポート課題に、進路についての焦りや葛藤など当時抱いていた気持ちを率直に書いたところ、担当の先生が親身になって話を聞いてくださったのです。当時はバンド活動をしていたこともあり服装などもかなり個性的だったのですが、そうした私の存在もごく自然に受け止めてくれ、個人を尊重する自由な雰囲気が青山学院にはありました。

キリスト教教育も現在の糧となっています。高等部から青山学院に通っていたので、日々の礼拝や学校生活全般からキリスト教の精神を知らず知らずのうちに吸収していたのだと思います。スクール・モットーの「地の塩、世の光」という言葉を通じて「自分らしさとは何か」を考え、「世の光」という言葉からは「社会に奉仕するため自ら行動すること」を学びました。「世の光」を体現するサーバント・リーダーシップを実践するには、なによりもまず信念を持つことが大切だと思います。信念こそが行動を決定するからです。例えば、国選弁護は特に公益面が大きく、経済面から捉えると経済面から捉えると厳しい仕事です。しかし私には「弁護士が手を離したら終わりだ」という思いがあるからこそ、常に全力で弁護に取り組むことができるのです。こうした学びや信念は、パンク・ロックに通底する反骨の精神とともに私の弁護活動の礎となっています。

私は「強い気持ちを持つ人は、いかなる困難にあっても絶対にやり遂げられる」と信じています。夢や目標を持つ学生のみなさんも、ぜひ自らの情熱を大切に、諦めずに挑戦し続けてほしいと思います。

卒業した学部

法学部 法学科

AOYAMA LAWの通称をもつ青山学院大学の法学部には、「法学科」に加え、2022年度新設の「ヒューマンライツ学科」があります。
法律は、人間社会の生活すべてに直結するともいえるルールです。法律を正しく理解し、公正で客観的な判断を下せる「リーガル・マインド」は社会のあらゆる領域で求められます。AOYAMA LAWの国際性豊かな教育は青山学院大学の歴史とともに歩んできました。
法学科では、国際的・実践的なカリキュラムを通じて、専門的知識と法的正義感を備えた「法の智恵」を養います。

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